チャボ以下の存在
ある日、父の会社の同僚が家に来たことがありました。
夕食時だったので私たち家族も一緒に食事をする事になりました。
父は親戚の経営する会社に勤めていたんですが、同僚の方の話を聞いているとどうやら普段私が見ている父と、会社での父は違ったようです。
同僚の方は母にこう言っていました。
「ご主人にはいつも気にかけてもらって助かっています」
「差し入れなんかもよくしてもらって、毎日のようにコーヒー奢ってもらってます」
誰の話をしているのかと思いました。
単なる社交辞令かも知れませんが、それでも驚いたのを覚えています。
そして、そう言われた父を見ると得意満面といった様子でした。
さらに同僚の方は私にもこう言いました。
「お父さんはね、会社でチャボを何匹か飼っているんだけど、そのチャボがすっごくお父さんに懐いているんだ」
「会社では放し飼いにしているんだけど、どんなに遠くにいてもお父さんが『おーい!』って言ったらみんなお父さんのところに集まってくるんだよ」
「お父さん以外の人が呼んでも来ないんだよ」
それを聞いて子供ながらに
「この人、生き物の世話をするんだ」
と思いました。
父はますます楽しそうにビールを飲んでいました。
どうやら父にはチャボに注ぐ愛情はあっても、私たち家族に注ぐ愛情は持ち合わせていなかったようです。
父にとって私はチャボ以下の存在でした。