いつの間にか
今回の話には動物を虐待する内容が含まれています。
また、動物が傷つく表現も含まれていますので、苦手な方は読み飛ばしてください。
小学校も5、6年生になると私は徐々に兄や近所の子たちと遊ばなくなりました。
特に何か理由があったわけではなく、学校の友達と遊ぶことが増えて自然と遊ばなくなったというだけです。
両親は相変わらず喧嘩をしていましたが、私たち兄妹も相変わらずそれを普通のこととして過ごしていました。
毎日変わらない日を過ごしていると思っていました。
ですが、いつの間にか兄は変わっていました。
私の通っていた小学校には飼育小屋がありました。
その飼育小屋はお世辞にも良い環境とは言えませんでした。
3畳ほどの小屋が2つあり、それぞれうさぎが約15羽と鶏5羽ほどが一緒に入れられており、食事は主に給食で残った野菜でした。
うさぎはオスメスに分けられていなかったので出産時期になるとたくさんのうさぎが産まれていました。
小屋の中ではうさぎと鶏が一緒にいるので、鶏がうさぎをつつき仔ウサギの中には死んでしまう子も多くいました。
親うさぎも目を突かれたり、耳をちぎられているような状況でした。
あとから聞いた話ですが、どうやらうさぎ同士でもかじり合ったりといったことがあったようです。
お腹を空かせてなのか、縄張り意識からなのか、理由はわかりません。
動物は好きでした。
でも、飼育小屋を見にいくことはあまりなかったような気がします。
小学生ながらあの飼育小屋のうさぎや鶏を見ると、良いイメージを持てなかったからかもしれません。
つまり私の「好き」は友達の家の猫や、お隣の犬のけんちゃんのような「幸せな環境で育った動物を見ることが好き」くらいのものでした。
そんな私に何のきっかけがあったのか、ある時飼育係の担当の先生から
「うさぎ、もらっていかない?」
と言われました。
今まであまり近寄りもしなかったのに「飼ってみたい」と思いました。
今考えると、とても軽はずみな事をしてしまったと後悔しています。
両親にも飼っていいかと聞きましたが不思議と反対はされませんでした。
と言うより、私のやる事なす事に興味がなかったのかもしれません。
とは言えうさぎとの生活は楽しかったです。
うさぎは元々警戒心の強い動物なので慣れるのに時間がかかりましたが、だんだん体を触らせてくれるようになったり、うさぎの方から膝の上に乗ってくれるようになっていました。
当時、一軒家に住んでいましたが、うさぎはリビングで飼って2階には行けないようにしていました。
一度階段を登り自力で降りられなくなっていて、危なかったからです。
家族も良い意味でうさぎを意識しているように感じました。
特に父の意識が少しうさぎに向かっているようでした。
父も家では暴力を振るっていましたが、会社ではチャボを飼っていたし動物自体は嫌いではなかったようです。
ある日、学校から帰ってきた時の事です。
私の家は玄関を開けるとすぐに階段があり、階段の一番上まで見える造りになっていました。
その一番上の段に兄がいました。
その前にはうさぎもいました。
私はうさぎが柵を越えて登ってしまったのかと思いました。
「仕方ないな」なんて思った瞬間、兄がうさぎを突き落としました。
一瞬、何が起こったのかわかりませんでした。
すごい音を立ててうさぎが私の足元まで落ちてきました。
そしてそのままよろよろとリビングに逃げていきました。
頭の中は真っ白で、言いたいことはたくさんあるはずなのに言葉にできませんでした。
でも兄が階段から降りてきて、私の目の前まで来てやっと
「今の何?」
とだけ聞きました。すると兄は
「鍛えてやっている」
と。
意味がわかりませんでした。
ただ、もうこの家ではうさぎを飼えないということだけは理解しました。
私は里親を探しました。
以前、近所の子たちとうさぎの話をしていてそのうちの一人の子が飼いたいと言っていたのを思い出しました。
私はその子の家に行き、うさぎを飼えなくなったから貰ってくれる家を探していると言いました。
その子もその子のお母さんも快く引き取ってくれました。
私はなぜ飼えなくなったのか聞かれずにホッとしていました。
最初、私は兄の「鍛えてやっている」の意味がわかりませんでした。
目の前で起こったことが衝撃的だったのもあるかもしれません。
ですが、すぐに分かりました。
「この家で暮らすなら暴力に慣れろ」
「殴られて、蹴られて、強くなれ」
と言う意味だったのだと思います。
兄の中で「悪いことをした」という感情はなく、ただ純粋に「鍛えて、強くしている」という感覚でいたのだと思います。
それくらい自然に返事をしました。
兄の言った事、した事は間違っています。
ですが、私の家では強くなければ生きていけないという事は間違っていません。
兄はいつの間にか歪んでいました。
そして、兄の言葉を理解できてしまった私もまた、歪んでいました。