にふじのブログ

わたしの「根っこ」

おとなしい虎

夕暮れの花

 

子供の頃に父と話をした覚えがありません。

 

いつ、どんなきっかけで父の癪に触ってしまうか分からなかったからです。

 

触れれば切られる、そんな雰囲気がありました。

 

それでも何度か話しかけようとした覚えはあります。

 

ですがその度に鋭い視線を向けられて

 

「…なんでもない」

 

そう言うだけで精一杯でした。

 

 

一方で、母方の法事で帰省した際、親戚みんなで一緒に食事をした時のことです。

 

皆明るくわいわいした雰囲気の中で、父は普段私たちに見せたことがないような柔らかい笑顔で相槌を打ちつつ、おとなしく食事をしていました。


その時に何かのきっかけで生まれ年の話になりました。

 

寅年生まれの父は親戚から

 

 

「おとなしい虎だね」

 

「虎というより借りてきた猫みたいだなぁ」

 

「あんた(母)の旦那はおとなしくてうらやましい。うちのはもう、あれこれうるさくて…」

 

 


そう言う親戚に私は内心ヒヤヒヤしていました。

 

冗談と言えど、もしかしたら父が怒り出してしまうかも知れません。

 

ですが父は怒ることもなく笑っていました。

 

 

そして帰りの車の中で「おとなしい虎」は激昂していました。

 

「お前(母)の所の親戚はうるさい」

 

「これだから嫌なんだ」

 

車の中という密閉された空間で、家に辿り着くまでの3時間はただ黙って流れる景色を眺めていました。

 

 法事以外で一切帰省しなかったのは、こういった付き合いをしたくなかったからなのだと後になって分かりました。